ないものを作ろう SPIRAL誕生ストーリー

vol.1 スペシャル対談

ないものを作ろう SPIRAL誕生ストーリー

建築家 進藤強さん × 湯川住み方研究所

松山にこれまでにはない、全く新しい賃貸住宅を作りたい!そんな熱い想いでつながった、湯川住み方研究所の湯川一富と一級建築士事務所ビーフンデザインの代表であり建築家の進藤強さん。
二人にSPIRALの誕生秘話、そしてこれからについて語っていただきました。

Chapter1

ないものを作りたい!そんなとき出会ったのが進藤さんでした。

– お二人の出会いのきっかけは?

湯川:最初、僕が今まで松山にないものを作りたい、自分ならこういう感じで建てたいっていう計画というか理想があったのですが、なかなか実現できなくて、ひとりでもがき苦しんでいたんです。
そんなとき知人に進藤さんを紹介してもらったのがきっかけですね。

– 苦しんでいたというのは?

湯川:新築建築プロジェクトが始まって、まず土地を探していました。そんなとき、立地は良かったのですが18坪しかない狭小地を見つけて、とても狭いけどなんとかそこに面白い物件を作りたかったんです。
最初に依頼した設計士さんとは、既存の常識の枠の中で話をしていました。なので結局は他と似たような物件や資金計画になってしまいました。長時間かけて打合せしてきたのですが、このまま進めてしまっていいのか・・・・・自分の中で葛藤があって。でも答えはわかってて、このままではマズイなと思ってて・・・・・

進藤:そうでしたね。最初に見せていただいた図面は、普通に1Fに受水槽があって駐車場があって、これがオーソドックスな賃貸住宅のルール!みたいな感じでしたね。

湯川:ただでさえ この土地は制約がすごく多い。奇抜なデザインよりもオーソドックスな方が建築計画は楽だけど、それじゃあ住む人が自分の住まいに楽しさを感じないし、差別化という部分でもよくないなと思って。

進藤:賃貸住宅を建てるうえで今は90点、100点のプランだったと思うけど、将来は100点はどうか?僕は60点かもしれない、でも200点かもしれないものをどう作っていけるかをいつも提案しています。一般的なプランは当然同じようなものがいっぱいあるから結果的に競争に負けるし、10年20年と残っていけない気がします。普通の物件は優等生で、SPIRALはどっちかっていうと ちょっとやんちゃ。でも200点とっちゃうみたいな 笑

Chapter2

初めての建築家との仕事。初めての地方での仕事

– 湯川さんにとって新築建築は初めてだったんですか?

湯川:はい。これまで10年近く中古物件を再生してきました。
新築の一番良いところは自分で企画してゼロから作れるところ。どこまで自分の企画したものをカタチにできるか、そこにチャレンジしたかった。土地から購入して、住む人も楽しくって、収益的にも競争力的にも成立するもの。そこまでを自分でできたら凄く嬉しいじゃないですか。
今までにないものを実現したかったんです。

– 建築家にお願いしたのは初めてだったんですよね。

湯川:最初は建築家の方って、なんだか敷居が高そうでしかも有名な方だと頼んでもなかなか引き受けてもらえなかったり、こちらの希望を聞いてもらえるのか正直不安でした。
でも自分と建築会社以外の第三者の立ち位置の専門家が入った方がクオリティ的にも進め方にしても絶対いいものができると予想はしていました。

– 進藤さんは松山のお仕事は初めてですよね?

進藤:そうです。ちょうど地方で仕事をしようと思ってました。
実家の神戸の叔母が賃貸住宅を作ったけど、ハウスメーカーに頼んだみたいで、僕がいるのに相談もしてくれなかったことがショックで。地方はまだまだ建築家の出番があると思ってたところだった。それで四国の話が来たから、関西の仕事のスタートは四国からだ!と思いました 笑

– まずどんな話からスタートしましたか?

進藤:まず最初に湯川さんと、「僕は”人”とやってるのであって、実績を作りたいわけじゃない」って話をしました。依頼主と一緒に1年間やっていけるかが僕の中では重要です。一緒に解決しないといけない問題がいっぱいあって、ましてや僕は問題を作るわけですから 笑
まあ問題というか一般にあるものを作らないで、最初から問題をだして、その問題を一緒に解ける人としか仕事はできませんって伝えました。

湯川:僕も最初は紹介してくれた知人に「もしかしたらプレゼン見て、内容によっては断るかもしれないけど大丈夫?」って言ってました。そしたらそのプレゼン内容は僕の想像を遥かに振り切ってて 笑
それよりも進藤さんと話してみて、楽しい物を作りたい。普通のものを建てるのだったら何も僕に頼まなくていいんだ。競争力のあるものを作りたいと言われて、その考え方を聞いて一緒にやっていける!と感じました。
それにね、しゃべりもこれ・・・関西弁じゃないですか。年齢も近かったし、意気投合するのに時間はかからなかったですよね 笑

進藤:賃貸住宅ってちゃんと入居してもらえるかが大事じゃないですか。個人住宅はその人が良ければいいけど。
今、僕は東京の仕事がほとんどなんですけど、東京だと住んでいるから住む人の気持ちがわかる。だけど松山は住んでないし、家賃の相場もわからない。近くにどんなカフェがあって、どんなビルや駅があって、どんな人が暮らしていますか?というやり取りをメールでひたすらしていましたね。入居が決まらないと僕もダメな建築家になっちゃうじゃないですか 笑。そしたら湯川さんからもメールがワーって返ってきて、この人とだったら大丈夫だと思いました。
今までは大家さんがハウスメーカーに丸投げしていた時代だからダメになったのかも。大家さんは大家さんのプロとして、ちゃんと周辺をリサーチして判断してもらいたい。

湯川:丸投げではなくこっちも必死でやらないと失礼だし、いいものは絶対できないと思って、進藤さんに自分なりのマーケティングリサーチを伝えました。
考え方はあくまで住む人目線で本当に楽しい住まいを提供したい。そして住む人が喜ぶと満室になる。大家さんも喜ぶ。みんなハッピーになりますよね。
今回はひとりではカタチにできなかった部分を進藤さんがカタチにしてくれました。

Chapter3

コンセプトもターゲットもない。それがSPIRAL

– SPIRALはどんな物件ですか?

湯川:進藤さんは最初から言ってましたよね。「開放的な気持ちよさ」って。最初はピンときてなくて、でも出来上がって納得です。縦に続いていく開放感。気持ちよさが繋がっていくイメージです。

進藤:SPIRALは賃貸だけど外みたいな空間でお風呂に入れます。普通の考えでいくと賃貸の場合はお風呂は下の階にあって。でも上の階にあるお風呂に入ると、その開放感に気づきますよ。
住宅の世界では当たり前のことが、賃貸ではまだまだ採り入れられていない。大家さんも自分の家じゃないし、そこまで踏み込まない。賃貸経営では借りる人が幸せかどうかで みんなが幸せになれるのに、そこを見ていないのかも。

湯川:9mの吹き抜け空間に、全高8mの螺旋階段。そんな部屋見たことないし、暮らしを想像しただけでワクワクします。
結婚して子供ができたらマイホームへ移られると思いますが、それまでの間だけでもSPIRALで生活すれば”暮らす楽しさ”が体験できると思います。

– コンセプトはありますか?

進藤:僕はもう自分が住みたいってことしか考えない 笑
これが正解かどうかはわからないけど、僕が住みたかったら僕と同じ思いの人はきっと何人かいるはず。
よく言うんだけど、ここに住むの4人でしょう?4人ならどんな変態でもいますよ 笑 これが40世帯だと難しいかな。僕みたいな人間は40人はいないかも 笑
ようするにコンセプトよりも、自分が住みたいか、気持ちがイイかが重要なんですよ。

湯川:とんがったミュージシャンみたいですね。俺は誰かのために歌ってない。自分のために歌ってるんだ!みたいな 笑
誰かが作ってて成功しているコンセプトだから僕も作ろう!ってのは違いますね。
そういうのはこれからますます支持されない気がします。

進藤:僕は入居者が入るとピンポーンって会いに行きます。僕の好きな物件に住む人は僕が好きな人なんだろうなって。
この間も住んでいる人に会いに行ったら、住人同士でパーティしていてビックリして。そういう仕掛けで確かに作ったけど、建築を作った時の想いがそのまんま入居者に伝わったのが驚きでしたね。

湯川:そういう想いでやってると、建物を通して迫力となって入居者に伝わるんですね。僕の物件でも入居者同士がコミュニティを作ってくれると嬉しいな。
また、住み方・暮らし方でいえば、ドラえもんにとっての押入れじゃないけど、どんなに狭くても居心地のいい空間ってありますよね。いろんな価値観・いろんな住み方があっていいと思います。

進藤:そう、ターゲットとか言ってるの もう古いかも。

Chapter4

これまでの価値観を壊すことが、これからの僕らの仕事

– これからの地方の賃貸はどうなっていくと思いますか?

進藤:東京はいろんな物件が増えて、いろんな好みの人に合わせた物件がもうあるから、逆にみんなが面積や立地を見るようになってきているんですよ。
10年前はデザイン賃貸っていうとそれだけで入居待ちだったんですが、今はそんなことはない。それを更に選ぶ時代。また古い価値観を壊さなくちゃいけない。
地方にはまだ可能性があると思いますよ。個性的な物件はまだあまりないから。

湯川:超個性的なSPIRALなんか不動産会社さんに「この物件の間取りは?」って聞かれても、僕が答えられない 笑
既存の枠では測れない間取りです。

進藤:いつも聞かれるんですけど、僕も何LDLか分からないんですよ。それになんて呼べばいいのか。ないものを作っているから 笑

湯川:これからも松山から個性的な物件を発信し、いろんな住み方提案をしていきたいですね。
僕は不動産屋でも建築会社でもなく”住み方マニア”でありたい。住む人にも大家さんにも喜んでもらえる住み方提案がしたい。なんなら業種の枠も超えられたらいいですね。
“みつけよう、自分らしい住み方” このスローガンに全てが集約されている気がします。この先もし方向性に迷うことがあっても、ここに立ち返ろうと思います。

進藤:湯川さん自身が一番住み方を楽しんで、いいと思うものを発信していけばいいと思う。それが嫌いという人がいても、それならそれでいいじゃないですか 笑

湯川:ありがとうございます。なんか勇気が湧いてきました 笑

 

収録日:2013/3/18
取材・文 / 川井知子

進藤 強

ビーフンデザイン代表

進藤 強

1973年兵庫県生まれ
1996年京都精華大学美術学部デザイン学科建築専攻卒業
1998-2002株式会社アーキテクトン米田明に師事
2012株式会社ビーフンデザイン

湯川 一富

湯川住み方研究所代表

湯川 一富

2005年に不動産賃貸業を松山で開始。2011年 自らゼロから企画し、今まで松山に無かったものを創りたいという思いから「住み方マニア新築プロジェクト」をスタート。2013年1月「みつけよう、自分らしい住み方」をコンセプトに、新しい住み方を提案する湯川住み方研究所を設立。2013年5月~柳井町商店街で「家ではなく、まちに住む」をコンセプトに、まちづくりに奮闘中。