24歳新入社員の日常

エッセイ 暮らしの妄想ストーリー

24歳新入社員の日常

家ではなく、まちに住む 暮らしの妄想ストーリー

もし、このALLEY APARTMENTに住むことになったら、このまち柳井町商店街でどんな風に目覚め、どんな風に眠りにつくのだろう・・・。私なりに ある日のストーリーを妄想してみた。
主人公は松山のまちなかに勤務する24歳の単身女性。このお部屋に引っ越してきたばかりだ。

Chapter1

平日ver. 6:30

窓を開けると部屋の中に柳井町商店街からBGMが流れ込んできた。
朝は小鳥のさえずりのBGMらしい。
ベッドから立ち上がり、ロフトを降りる。
下の土間には小さな机とイスが置かれてある。
この引っ越しに備えて気に入ったものを少しずつ集めてきたので、例えばイスも一つ一つがそれぞれ違うデザインだ。
せっかく新生活を始めるのだから、好きなものだけに囲まれて生活したい。
確か近所にいい感じのうつわ屋さんがあった気がするな。
今度食器を探しに行ってみよう。

朝食の準備をする。
食事は基本リビングだが、気分によってこの土間にあるテーブルで済ませる。冬は石油ストーブを置いて、ちょっと寒い中で食べる鍋なんかは最高だろうと思う。
それにこの土間はマイペースな私にピッタリだ。ついゆっくりしてしまって遅刻しそうな朝も、全ての支度を済ませて、靴も履いた状態でご飯を済ませられる。
コストコで買ってきたシリアルを食べてそのままチャリに乗って職場へ、なんてめちゃくちゃカッコいいではないか。
いつか見た洋画でこんなキャリアウーマンを見た気がする。と、そんなことを考えていたら あっという間にまた時間が経っていた。
玄関を出て。商店街の風ぐるまに目をやる。
今日はえらく回転が速いので、髪はくくって行こう。
適当に髪を束ねて自転車に跨る。いってきます。

Chapter2

平日ver. 21:00

疲れた。夜の柳井町商店街に帰っていく。
なんだか日中とは違ってディープな雰囲気だ。
ガヤガヤした中心街から少し離れた異世界感。
BGMは「イパネマの娘」か。この曲好きだな。
玄関に自転車を入れ、コーヒーを飲むためお湯を沸かし、そのままリビングでコーヒー豆をガリガリ。
コーヒーを淹れたら、リビングに置いてある独立式のハンモックでダラダラ。最高だ。

シャワーを浴びる。水蒸気で少し曇ったガラス張りの窓を手で撫でて、私だけのリビングを見渡した。
家具や雑貨の一つ一つを眺めながら、いつか母が言っていた「選び取るもののすべては、その人の生きる佇まいを表すんだよ」という言葉を思い出した。
身の回りの物も、自ら住むと決めたこの部屋も、まちも、きっとその全てが私らしさなんだ。

お風呂を済ませてロフトに上がり、ベッドに寝転がる。
シーンとした部屋で天井を見つめた。
商店街のBGMも、もう眠りについたようだ。
車の通らないこの商店街の夜はとても静かだ。
ああ、眠い。おやすみなさい。

Chapter3

休日ver. 11:00

こんな時間まで寝てしまっていた。
窓を開けると商店街からカーペンターズの「Top of the world」が流れ込んできて、単純な私は活動意欲がじわじわと湧いてくる。
サンダルを履き、朝ごはんだか昼ごはんだかわからない食事を作るためキッチンへ向かう。
今日はカフェ風にしてみよう、と土間にあるテーブルにテーブルクロスをかける。
今日の朝ごはんはフレンチトーストだ。
お気に入りの器にフワフワのフレンチトーストをポテッとのっける。
この輪花型のお皿は、近所のうつや屋独歩さんで購入したものだ。
はい可愛い、はい最高、と一人で満足する。

よく考えたら、私は引っ越して来たばかりのこのまちの事を何も知らない。
ぶらっと散歩してみることにした。
お隣の古書店浮雲書店には、お兄さんがポツンとお店番をしている。
勇気をもって話しかけてみたら物腰が柔らかくて話しやすい。
仲良くなれるかもしれないな。
大好きな星新一さんの短編集を見つけたので、購入してお店を出た。
星新一シリーズは大体網羅していたつもりでいたのに、意外にもこんな近くにまだ読んでないものがあったとは。

まちをブラブラ歩く。できるだけ、まだ知らない道を選んで歩く。
この辺は銭湯が多いな。銭湯巡りでもしたら面白そうだ。
こんな風に改めてまち歩きをしてみると、実はいろんなことを見逃していることに気づかされる。
このまちのこと、もっと知りたい。
夕飯の材料を買って帰ろう。

Chapter4

休日ver. 16:00

やっぱり休日は家でゆっくりするに限る。
さっき古本屋で買った本を読みながら、リビングのハンモックでくつろぐ。
高い天井を見上げる。明日からまた仕事だ。
「はぁ、」とついたため息が、高い天井に吸いこまれていく。
不思議と心は窮屈じゃない。
この高い天井のおかげというのもあるけれど、私にはきちんと帰る場所があるからなのだと思う。
暮らしてみて、まちの人と話してみて、少しずつ自分の居場所ができあがっていく。
毎朝、私を見かけると、挨拶と一緒に一言声をかけてくれる来島金物店のおじさんがいること。
朝早くから仕込みをするステクル弁当から漂うお惣菜の匂い。
このまちを選んでよかったと思う。

さあ、晩御飯の支度をしよう。
今日は何をつくろうか、考えながらキッチンの窓を開けた。
商店街のBGMは・・・お、今日は演歌なのか。
一貫性のないプレイリストも面白くて好きだ。
もうすっかり窓の外は夕日の色に変わっている。
一日が少しずつ終わっていく。
今度、友人をこの部屋に、このまちに招待しようと思った。

湯川 一富

湯川住み方研究所 代表

湯川 一富

2005年に不動産賃貸業を松山で開始。2011年 自らゼロから企画し、今まで松山に無かったものを創りたいという思いから「住み方マニア新築プロジェクト」をスタート。2013年1月「みつけよう、自分らしい住み方」をコンセプトに、新しい住み方を提案する湯川住み方研究所を設立。2013年5月~柳井町商店街で「家ではなく、まちに住む」をコンセプトに、まちづくりに奮闘中。